新緑光る

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


  コトの始めは、
  朝も早くに親友たち二人の間で交わされていた
  手短なやり取りだった。


 萌えだしたばかりなこと思わす、発色のいい若緑の葉が何とも鮮やかな茂みへ。遅咲きのツツジの赤紫や白や緋色が、ちらほらと可憐なお顔を見せ始めていて。寒暖の差が日替わりというペースで乱高下したややこしい春も、さすがにそろそろ落ち着こうかという五月の半ば過ぎ。

 「おはようございます。」
 「おはよう。」
 「今日はいいお天気になりそうな気配ですわね。」
 「本当に。」

 きゃあきゃあという嬌声が立つでなし、なかなかに品のいい声でのご挨拶が飛び交うのは、大半の歩行者が とある学園へと向かう少女たちで埋まる、閑静な住宅地の中の通学路。一応は名門と銘打たれた女学校に通う、そりゃあ瑞々しい年頃の子女らは、開襟タイプのブラウスにリボンタイ、そこへ夏でもニットのベストを合わせるというのがハヤリな今時に、創立当時からさしたるモデルチェンジもないままという、どこか古式ゆかしきデザインのセーラー服を身にまとい。おはよう、おっはよvvと、よくあるトーンでの軽やかなお声を交わす子らもいれば、それなりの格のお家のお嬢様なぞは、先に挙げたような、品行方正にして風格の兆しも滲む、淑やかで落ち着いたご挨拶を交わしておいで。入学に際し、家庭の経済状況だの家柄だのが問われる訳ではないのだけれど。そこは…長き歴史を誇り、校風のみならず校則にも、品格を重んじるあれこれが現存するお堅い学園ゆえ、学力レベルもそうそう悪くはないとはいえ、自由を謳いつつも同時に過ぎたる奔放は利かない傾向がところどこにあって。そんなところからも“お嬢様学校”というお顔を保ち続けつつ、おっとりと品行方正な、いかにもな“子羊”さんたちばかりが通う、ミッション系女子校としても有名で。生え抜きのご令嬢たちの憧れの聖地であるがゆえ、基本、品のいい娘さんたちの集うそんな登校の風景の中にあって、

 「そうそう、キュウゾウ。
  ゴロさんがマドレーヌだけでいいのかって訊いてましたけど?」

 中には外交官だの海外に本拠のある大企業のご令嬢も多数いるがため、かつては“やまとなでしこ”の条件でもあったそれ、カラスの濡羽色と謳われた深みある漆黒の髪の子ばかりでないのも時代の移りか。そういった当世の事情というものをようよう把握していても、落ち着いた色合いの制服の群れの中にあって、尚更殊更 異彩を放って映るそれ。明るい茜色の髪をした少女が、すぐ傍らにいた、そちらさんは綿あめのようにふわふかな、それでいて神々しいばかりの金の髪した仲良しさんへと、そんなお声を掛けたれば。

 「…?」

 鄙には稀なという言い回しがあるが、都にだって滅多にゃいない。切れ長な双眸は珍しい紅色で、少々眠たげな伏し目がちでいても、それはそれは鋭くも冴えた印象をもたらすほどに。そんな目許がいや映える、何ともきりりとした風貌をなさっておいでな美少女…でありながら。実をいや、そんな雰囲気を大きく裏切る中身。落ち着いて見える寡黙さも、頭や胸中で思う感情をうまく変換出来ぬからという、微妙にずぼらな理由から来ている、そんな彼女へと掛けられた声だったはずなのに、

 「何のお話ですか、それ?」

 名指しで訊かれた当人より先に、その向こう側をやはり並んで歩いてた、やはり仲良しなお友達が、仄かな怪訝を滲ませた声を挟んで来る。そちらの少女もまた、清楚にまとめた髪色が飛び抜けており。本当に金を梳き込まれているかのような、見事なつやを満たした金色のストレートのそれを、日頃は左右に振り分け、丁寧に編んでいるのだが。今日は余程のこと時間に余裕があったか、小さめのお団子にして根元を淡色のシュシュでまとめ、後頭部へちょこりと据えている模様。後れ毛をちょっぴりほど ぽやぽや散らし、白いうなじを出した髪形は、陽の光が緑の梢を冴えさせるこの時期には、見た目以上に目映いほどで。そんな様であることは、秘かに存在する熱烈なシンパシィたちへも、あっと言う間の速やかに広まってゆき、今日のお姉様はとっても大人っぽくて素敵…と早速にも誉めそやされてもいるらしいのだが。そんなの知ったこっちゃないとするご当人様は お名前を七郎次といって、それほどに見事で明るい髪色に加え、こちらさんは青玻璃の双眸を白いお顔へと据えており。嫋やかで玲瓏、霞がかかって見えるほど目映い肌に、西欧のビスクドールを思わすような端正な目鼻立ちという風貌をしておりながら、こちら様もまた、そんな粛然とした印象を大きく裏切ってのこと、関東でも強豪と名高い この学園の剣道部の現在の主将だったりし。少々目尻の下がった目許だってことが、何とか甘えん坊な色をもたらしている そのお顔、二人のお友達へと振り向けた彼女へと、

 「ああ、シチさんへは話してませんでしたね。」

 赤い髪の少女が、そういやそうだったと その目を見張りつつ言葉を添える。普段は 笑い猫のように細められた、どこか愛嬌のある目許をし、そんなせいだろか、表情自体も常に微笑っているかのような印象を拭えぬ、至って朗らかな彼女。お名前は 林田平八といって、三人娘のムードメイカーで、且つ、微妙に天然な傾向の強いお仲間の金髪娘さんたちを さりげなくリードしたりフォローしたりする、手綱取りのポジションも務めておいで。今もそうで、最初の一言を差し向けたご当人なはずのもう一人の金髪さんが、何とも声を発せぬ…どころか傍観者の位置についてるの、目顔で何とはなく確認しつつ。問題なしとし、どんどんと話を進めてゆくのもいつもの手際。

 「この週末に、キュウゾウがウチでケーキを焼くんですよ。」

 しかもゴロさんのご教授受けてvvと、その点こそが重要だと言わんばかりの楽しげに、歌うように続いたそれだったのへ。だがだが、七郎次の反応はなかなかに素早く。青い双眸が微妙に眇められつつも やや吊り上がると、

 「…それ、アタシ聞いてない。」
 「でしょうねぇ。だって今朝方 メールで打診されたばかりなお話ですし。」

 うふふんと、その笑みをなお濃くした童顔の傍らにて、久蔵もまた、こくりとはっきり頷いて見せたのだが。そうなってしまったこの構図がまた、彼女らと自分という“2:1”という案配で、此岸と彼岸に分けられたような気がしたのだろう。仲間外れはナシでげすよと言うつもり、

 「何でですよぉ、なんか最近二人でばかりいやしませんか?」

 仲良し同士なのにという甘えもあってのこと、そんなの狡いという語調で問うたところが、

 「何を仰せか。」

 打てば響くとは正にこのこと。少々古めかしい、芝居がかった言いようなのは、そうと攻めて来られる予測でもあったのか。間髪入れない鋭い間合いで、平八がはきはきと言い返してくる。曰く、いつもお忙しい誰かさんが、それでもここんとこ大いに脈ありな応じをしてくれてるようだから。それを善しと見た私たちとしては、出来るだけ邪魔せずに見守ってようとしているだけ。

 「ホントだったらシチさんも誘いたいのは山々ですが、
  あんのお髭の壮年殿と来たら、どんな奥手か朴念仁か、
  警察官としては敏腕であれ、
  こっちに限っては、なかなか行動を取らぬお人ですからね。」

 昔も今も、一度に一つことしか出来ぬ不器用で、だからこそ…シチさんへだって、片手間に相手しちゃいけないと思ってのことなのかもしれませんが それでもね。だっていうのへ 負けるものかとアタックし続け、何とかもぎ取って来ていた出会いの場なんでしょう? そんな健気なシチさんを、あたしらこれでも応援しているんですってば、と。そりゃあすらすらと語られちゃあ、

 「う…。///////」

 淀みないだけじゃあなく、どこにも非の打ちどころのない言い回しには、さしもの元・槍使い殿とて、ついつい反駁の勢いもそがれての、口調の歯切れも悪くなるというもの。こちらさんだって…かつての“生”では 幇間としてお座敷で磨いた格別な話術も持ち合わし、今生でも今時の女子高生として口が達者な筈じゃああるけれど。指摘を受けたその通り、年上の恋人との なかなか進まぬ恋模様に焦れることしきりでもあるがため。そこへの気遣いなのだと言われちゃあ、ずるいと責めてたはずが、

 「……気を遣わせちゃいましたかね。/////////」

 何しろ、こんなことがあった こんなメールをいただいたと、八つ当たりっぽい愚痴から惚気同然な“や〜んどうしよう”なご相談まで、ついつい“聞いて聞いてvv”と彼女らへと逐一ご報告している七郎次であるし、ここ最近、それの頻度が上がっていることへは さすがに自覚もあるらしく。冗談にでも睨む真似なんてしてごめんなさいと、却って謝る始末だったりし。無論の勿論、喧嘩腰になるつもりなんてのはないお友達二人の側もまた。しっかり者な彼女を、それでもこうまで翻弄する恋心に関しては…ささやかなことでどれほど気持ちが浮き沈みするものか、まだ十代という身の少女にとっては、それがどれほど大変かなどなどという辺り、カラーは違えど同じく体験中には変わりなく。世に言うお互い様、重々承知の身であったので、

 「大したこっちゃあありませんけどね。」
 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

 シチさんには何の罪も科
(とが)もないことですしと。愛嬌のあるキャンディフェイスと、限られた人にしか酌みとれないクールビューティ、両極端な二人が見せた暖かい微笑が、きゅんと胸の底を締めつけつつ、そりゃあよくよく響いての七郎次の心根へまで届いたところで、さて。

 「それで、ですね。」

 七郎次ばかりへ言いつらってるようでは不公平…とでも、思ったか。責めたいワケじゃあないという心情の現れのように、次にと平八が口にしたのが、

 「実は実は、ひょ…じゃないや、
  榊せんせーのお誕生日が六月なんですって。」

 一応は校医でもあるお人の話題なのでと、周囲を行き交う在校生らのお耳には入らぬよう、一応の用心にと声を低めた平八であり。ちなみに、お喋りしつつも歩みは止めぬ彼女らだったので、冒頭のやり取りからずんずんと場所は移ってっての、今は正門にあたる校門を入って、彼女らが使っている二年生用の昇降口へと向かう途中。まるで迎賓館か大使館のそれのような、背丈のある高い高い鉄柵に取り囲まれたその敷地は、校章をかたどったエンブレムが据えられた やはり鉄の格子の門扉の向こうに、丁寧な手入れの施された前庭があり。その真ん中を貫いて、豊かな緑の茂みや芝生に左右を固められた遊歩道が、ほんの数分ほど続くという、瀟洒豪華ではないながら、真の贅を尽くされた空間が広がっておいで。さほどに早すぎもせず遅くもない時間帯なので、

  おはようございます、○○先輩
  ごきげんよう、○○さん

 優雅なご挨拶が、同じように周囲をゆく女生徒たちから引っ切りなしに降ってくる中、お行儀のいい笑顔を振り向け、ちゃんと相手へ届くような目礼を返し、時には手を振って見せたりもしつつ、悠々とした登校をこなしながらの会話となっている、彼女らだったりするのだが。

 「………で?vvv」

 語尾についてる小文字のvvといい、もう既に何が続くのかは薄々気がついてもいるのだろうに。そこをわざわざ言わせたいらしい…さっきまで ぶうたれ気味だったお団子頭のお嬢さんが、ワクワクと もう微笑っている楽しい企み、もとえ計画というのが、

 「実はあれで甘党だという(ヒョーゴ)先生へ、
  “手作りの甘味をプレゼントしちゃおう、
   ここまで腕が上がってるんですよ どーだ参ったか”企画を、と。」

 人差し指をピッと立て、何に宣誓しているのかと思うよな、それは思い切りのいいポージングにて。五月の残りを費やす所存で計画しております企画、( )の実名だけは小声で誤魔化しつつも、堂々の発表をして見せるお茶目っぷりであり。……って、タイトルが無駄に長いぞ、ヘイさん。
(苦笑)

 「で、キュウゾウが言うには、
  マドレーヌだったら、特に気張って練習しなくとも
  まあ焼けるだろとは思うのだけれどということなので。
  微妙なんならウチで練習しなさいとゴロさんが。
  練習に焼いた試作品は“八百萬屋”で無量で配れば無駄にもなるまいって。」

 という そこまでを、今朝突然打って来たメールで打ち合わせた、久蔵と平八&彼女の居候先(同棲とも呼ぶ)の甘味処“八百萬屋”店主、片山五郎兵衛だったらしいのだが、

 「そういや最近、
  ロールケーキにも挑戦しているとかどうとか言ってなかったかって。」
 「…っ!」

 何で知っているんだ、ですって? こないだ、選りにも選ってウチへ、ケーキの差し入れを持って来たのは何処のどどいつさんですか。花屋に花を持って来るような真似をした久蔵だったのは七郎次も覚えており、

 「………あ、もしかしてアレって?」
 「〜、〜、〜。(否、否、否)」

 寡黙な自分の思うことが こちらの彼女らには不思議と通じることに比べたら、そんな洞察は初歩の初歩。七郎次が思い浮かべたのだろう“もしかして”をすぐさまご本人が否定して、

 「ええ、あれは手作りの店“ラフティ”の無添加ロールで、
  微妙に崩れていたのは、持って来た久蔵がどっかでぶつけたからだそうですよ。」

 実は…マドレーヌ云々のメールをもらったおり、やはり同じことを感じ、ご当人へと訊いたらしい平八が斟酌なくのあっさりと、詳細を付け足してから、

 「でもでも、そのラフティのロールケーキ、実は先生もはまってるんだそうで。」

 それでと、あの日も…ホントだったら“ラフティ”の一角に並んでる、有機玉子を買うつもりが、つい手が伸びててケーキの方を買ってしまった久蔵だったという順番だったらしいんですよ。

 「それが判ってしまうと何だか日頃以上に可愛くなっちゃいましてねぇ。」
 「〜〜〜〜。//////////」

 確かに、世話好きでしゃきしゃきしたこちらの二人に比べりゃあ ぼんやりしているところもあるかもと、そんな微妙な自覚もないではない久蔵ではあるが。だからと言って、くどいようだが“花屋に花”みたいなお買い物をしちゃうほど抜けてはいなかったはず。うあ、そこまで気もそぞろになってたなんてと、確認し直したような気持ちになったのか。肉づきも色味も薄い口許をうにむにとたわませながら、真白な頬を朱に染め、白い手が提げていた学校指定の学生カバンを、体の前、セーラー服の胸元のリボン越しに見下ろせば。かつての“生”では 死胡蝶とまで呼ばれていた剣豪さんの見せた、あまりの可憐さ愛らしさへ、

  「…キュウゾウったら、かわいいっvv」

 きゃ〜んっという桃色のお声つきで、七郎次が久蔵の細っこい肩口辺り、首っ玉へと飛びついて。飴色が出るほどよくよく磨かれたお廊下の突き当たり、初夏の陽射しが清かに差し入る窓の間近で、お互いの金の髪を燦然と煌めかせ、お揃いの濃色セーラー服美少女同士が抱きつき合っている図は なかなかに麗しくも爽やかで。


  あああもうもう、どうしましょうか。
  そこまで想いが煮詰まってるだなんて。

  そんな言い方は辞めたげてください、
  さして変わんない煮詰まりようのくせに。

  あ、言ったなぁ。
  そういうヘイさんだって、
  一つ屋根の下に暮らしてまでいるお相手に、
  何んにもしてもらえないって言って、
  ちょっと前まで立派に膨れていたくせにぃ。

  「…………………っ。////////////」

  ああ、はいはい、ごめんなさい。

  本気で喧嘩になってるワケじゃないから安心して、久蔵。


 自分を挟んでの言い合いが鬱陶しかったのもあろうけれど、それ相応の“眸ヂカラ”があるとはいえ、無言の一瞥だけでこちらの行動派美少女二人を一旦停止させ、その上で窘められるところは、久蔵さんもまた なかなかの実力派と言えて。中間考査前なのでと短縮授業となる今日から週末までの放課後毎日、今から楽しみですねぇと、そりゃあにこやかに可愛らしい額をくっつけ合った少女たちへ、古式ゆかしき鐘の音が早く教室へお入んなさいと、奥深い響きで告げていた朝でございます。





    〜Fine〜  10.05.24.


  *やっぱり苗字がないと、
   他の人からどう呼ばせるのかへ苦労しちゃいますね。
   名前呼びってのはよほど親しい間柄じゃないと、
   大人は特に やんないと思うし。
   ちなみに、候補としては、
   声優さんだった三木さんと草野さんでもいいかなと思っておりますが、
   それだと某様のところの彼女らと、微妙にかぶってしまうのが困りもの。
   か、構いませんか? M様?

  *今回のお話、本当はネ、
   編み物得意なウチのシチちゃんが、
   でも実は、お料理のほうはからっきしダメとかだったら
   可愛いかなと思ったんですよね。
   料理は出来るけど、但しお菓子の類はダメとか。
   それが、

   「だって勘兵衛様、甘いものはあんまり好きじゃないと思ってたらサ、
    ホントは回転焼きとかメロンパンとかシュークリームとか、
    自分で買うこともあるほど食べる方だって判ったの」

   そうと来ての一念発起、
   酒の肴しか作れないと思われてるらしいから、
   アタシもマドレーヌやロールケーキを焼きたいと。
   見学どころじゃなくの参加したりして…と。
   お声があれば後日談篇も書くかも知れませんが。
   ……ご本家の方が断然可愛らしいので、ウチのは もういいでしょか?


  *ちなみに Part.2
   このシリーズでは、
   ウチのには珍しく くっきりはっきりと“兵久”なので、
   ヒョーゴさんのお誕生日も、
   ホントは5月9日にしようかと思ってたんですが。
   …今年のその日が、何ときっちり“母の日”だったので
   あわてて却下したのはここだけの話です。
(笑)

ご要望のお声に甘えて… 続編  へ

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